top of page

イセエビ剥製④

剥製師として活動を始めて約5年。


制作作業の傍らホームページを立ち上げたり、ブログを書いたり、Twitterでつぶやいたりと情報を発信してきましたが、


この地道な努力が実を結び始めたのか、


なんとなんと、


ホームページを見てくださった博物館からご連絡があり、イセエビの剥製を制作させていただく運びとなりました。


こんな無名の素人に博物館の展示品の制作をお任せいただけるとは、身に余る光栄です。


あまりにもスケールの大きなお話なのでかなりのプレッシャーですが、イセエビは何度か制作経験があるというのがせめてもの救いです。

これまでに培った経験を活かして成功させることができるように頑張ります ᕦ(ò_óˇ)ᕤ






・・・と最初は大口を叩いていたのですが、






送っていただいたイセエビを確認すると、






でかっ!!!


画像では大きさが伝わらないかもしれませんが、体重約1.2kg、体長約35cm、ヒゲの長さを入れると50cmを優に超える化け物サイズです。


今までこんな大きな剥製は作ったことがないので、桁違いの大きさに早くも戦意を喪失しております💦






やれやれ最初からこんな調子で大丈夫なのでしょうか。


先が思いやられますが、ここから長い奮闘記の始まりです。

お時間ある方はどうぞ最後までお付き合いください。





まず最初の難関、「鍋に入るか」問題。


私は甲殻類の剥製を作るときは、初めにボイルするようにしています。

(なぜボイルするのか理由を説明すると話が長くなるので割愛ww)

なので素材が鍋に入らなければ制作を始めることができません。


イセエビがあまりにも大きくて家にある鍋には入り切らなかったので、祖父母の家にある一番大きな鍋を持ってきて入れてみたところ、




ギリギリ収まりました。


これでなんとか作業を進めることができそうです。


それではボイルして制作開始です。






20分後・・・






見事に茹で上がりました。


「おぉ~、美味しそう」

と、呑気なことを言っている場合ではありません。



ここで次の難関、「殻を壊さずに除肉できるか」問題。


外観をきれいに残さないといけないので、バキッと折って身にかじりつくなんてもってのほかです。


殻を傷つけないように、関節の隙間に耳かきを入れ、少しずつ身を取り除いていきます。






作業すること約5時間・・・






除肉が終了しました。

大物だっただけに時間もそれなりにかかりましたね💦




あれっ、脚が取れてるじゃん Σ(゚д゚lll)




そうなんです。

除肉中に脚が取れてしまったんです💦

これは嫌なバラけ方をしました。

殻が割れなかったのは不幸中の幸いですが、修復にはかなりの時間を奪われそうです。




ということで突如発生した「脚を修復できるか」問題。




小さな個体であればアロンアルファで簡単に接着できるのですが、ここまで大きな個体だと接着剤が殻の重みに耐えきれないのか、何度接着してもすぐに脚が取れてしまいます。


今回はアロンアルファでの短期決戦は諦め、関節を固定して接着部分に木工用ボンドを厚く塗り、時間をかけて乾燥させ接着するという長期戦で臨むことにしました。






乾燥させること約1週間・・・







なんとか修復できました。


ボンドもしっかり固まり、もう脚が取れることはなさそうです。


これで安心して次の作業に移れます ε-(´∀`*)ホッ






続いての難関は、「ヒゲ(触角)を折らずに形を整えることができるか」問題。



ヒゲが歪んだままでは格好悪いので、きれいに伸ばす必要があります。


しかしこのままでは乾燥してガチガチに固まっているので、無理に伸ばすとヒゲが折れてしまいます。


なので水で濡らして時間をかけてふやかし、柔らかくなったところでヒゲをゆっくり伸ばしながら形をきれいに整えます。






そして修正が終わった画像がこちら↓

ヒゲも折れることなく無事に形を整えることができました。




これで上半身(頭胸部)の形がある程度整ったので、次は気になる箇所を微調整していきます。






脚の先端が欠損していたので




パテで復元します。







乾燥してシワシワになってしまった眼玉も




元の丸みを帯びた形に復元します。






左右でヒゲ(前方に伸ばしている第1触角)の長さが違っていたので、




長さが揃うように細工しました。




どれも遠くから見れば全然気にならないかもしれませんが、一応博物館に展示される作品なのでこだわってみました。





上半身の微調整が終わったら、下半身(腹部)とドッキングです。






おぉ~、カッコいい~。


全身が揃うことでグッと存在感が増しますね。


それにしてもデカい💦

隣に並べた50cmの物差しと比べると、その大きさがわかるかと思います。


これは間違いなくこれまでの剥製師人生の中で最大の作品になりますね。






これでやっと下準備が終わったので、これから絵の具で塗装していきます。


というわけでやってまいりました最大の難関、「無事に塗装できるか」問題。


今まで経験したことのない大物なのでかなりの時間がかかることが予想されますが、千里の道も一歩から。

少しずつ着実に塗り進めていきます。







まずは脚の塗装。


これだけの塗装に7時間もかかってしました💦


「脚の部分は面積が少ないから塗りやすいだろう」

とナメてかかっていたのですが、これは想像以上に手強そうです。


かなり精神力を奪われてしまったので、今日の塗装はここで中断(>_<)

続きはまた後日にします。






ということで日を改めて、腹部とヒゲを塗装。






さらに日を改めて残りの部分を塗り、これで塗装作業終了です。


塗装作業だけで約15時間、日数にして5日くらいかかったでしょうか。

時間はかかりましたが、大きなトラブルなく塗り進めることができたので良かったです。






それではいよいよ最後の難関、「ウレタン塗装が成功するか」問題。


最後のつや出しコーティングにはウレタンという塗料を使っているのですが、これがなかなか厄介な代物で、湿気を含んでしまうと白濁したり、泡だらけになってしまったりするんです。


絵の具の乾燥が不十分なまま作業を進めたり、湿気の多い日に作業したりすると、最後の最後で大失敗、これまでの苦労が全て水の泡という結果になりかねません。(実際これまで何度も失敗してきました)

なので作業できる日を慎重に見極める必要があります。


今年の夏は特に雨が多かったので、作業できない日が何週間も続きもどかしかったですが、焦りは禁物です。

天気が十分に回復するのを待って作業を行いました。






そしてついに、








完成しました~!!!


見てくださいこのクオリティー。

これまでに作ったイセエビの中で一番完成度が高い作品に仕上がったと思います。

まさに集大成という感じで、見応え十分です。



博物館の担当者様にメールで画像を送り確認していただいたところ、OKをいただきましたので納品を済ませ、これにて全ての作業が終了です。


完成まで約5ヶ月。

山あり谷ありと長い道のりでしたが、無事に任務を果たすことができてホッとしています。


実際に展示されるのはまだ先のようですが、展示されるようになったら見に行ってみようと思います。

その頃にはコロナも収まっていたらいいですね。


一日も早くコロナが収束し、自由に出歩ける日常が戻ってくることを願います。

(と言いながら、実のところは制作に専念できるおうち時間を一人で満喫しているのでしたww)

タグ:

Comments


特集記事
最新記事
アーカイブ
タグから検索
bottom of page